大阪府高槻市の女性(当時54歳)への殺人容疑で再逮捕された養子の高井凜容疑者(当時28歳)が9月、大阪府警福島署の留置場で自殺した問題で、府警は14日、当時の管理状況を検証した報告書を公表した。署内に設置された容疑者の私物保管庫は逮捕から1カ月以上一度も点検されず、死亡6日前に調べたとした点検簿は偽造されていた。保管庫には自殺に使われたTシャツの一部が入っていたことが分かっている。
「言語道断だ」府警が総括
大阪府警福島署=大阪市福島区で2022年9月3日、本社ヘリから
府警は同日、点検簿の偽造に関わったとして、福島署留置管理課の男性警部補(58)ら署員3人を虚偽有印公文書作成・同行使容疑で書類送検した。「(点検を怠っていると)幹部から指導されると考えた」と説明しているという。
福島署は高井容疑者が心肺停止状態で発見される18分前に巡回したと説明していたが、実際は虚偽報告だったことも判明。報告書は相次いで発覚した不正やずさんな管理を挙げ、「不適切な対応で言語道断だ」と総括した。
府警によると、福島署留置場の居室に単独留置中だった高井容疑者は9月1日午前7時2分、居室内の金網に複数のTシャツの裾部分を重ねてひも状にした布をかけ、ぐったりした状態で発見された。搬送先の病院でこの日夜に死亡した。私物保管庫には裾部分が破かれたTシャツなど計4枚が残されていたという。
私物保管庫は居室の外にあり、容疑者は担当者の立ち会う中で所持品の出し入れができる。府警は内規で保管庫を月2回以上点検することを署に求めている。
府警が関係者から聞き取り調査を進めた結果、福島署は高井容疑者が最初に逮捕された7月20日から一度も保管庫を点検していなかったことが判明。署の点検簿には8月26日に一度だけ調べたとする記録が残され、府警本部にも報告されたが、留置管理課の男性警部補ら3人が偽造していた。
10時間に50回の夜間巡回も15回のみ
報告書によると、高井容疑者は自殺をほのめかす内容の便箋を書き残し、死亡の2日前に福島署員が確認していた。この異変は署長や署の留置管理課長らに報告され、午後9時から10時間の夜間巡回について、1時間あたり4回から5回に増やして計50回実施する強化策が決まった。
しかし、高井容疑者が自殺する前日以降の夜間巡回は大幅に間引かれ、計15回の巡回にとどまっていた。自殺直前の午前6時台は一度も巡回は実施されておらず、「午前6時44分に容疑者は布団で寝ていた」とする報告は虚偽だったことも明らかになった。
府警は内規で自殺の恐れがある場合、警戒度が最も高く24時間態勢の対面監視などが必要な「特別要注意被留置者」への指定を求めている。福島署長は容疑者の便箋の内容を自身で確認せず、この指定を見送っていた。府警本部の留置管理課と便箋を巡る情報共有も不十分だったと結論付けた。
検証結果を受け、府警は再発防止策も公表。私物保管庫の点検や巡回のマニュアルなどを新たに作成して内規順守の徹底を図るとともに、自殺のリスク評価を厳格化する。
一方、府警は14日、一連の対応の不備や監督責任を問い、福島署の八木一宏署長(58)ら計7人を戒告などの懲戒処分にした。本部留置管理課の渕田れい子課長(58)らを本部長訓戒などの内部処分にし、処分者は計18人になった。【三上健太郎】
大阪・高槻女性殺害事件
大阪府高槻市の民家で2021年7月、住人の会社員、高井直子さん(死亡時54歳)の遺体が浴槽で発見された。高井さんには総額約1億5000万円の生命保険金がかけられ、事件直前に養子になった元保険外交員の凜容疑者(同28歳)が受取人になっていた。大阪府警は22年7月、養子縁組届に自身の家族名を無断で書き込んだ偽造容疑で凜容疑者を逮捕。8月25日に保険金目的の殺人容疑などで再逮捕した。黙秘していた凜容疑者は1週間後の9月1日、勾留先の福島署留置場で自殺した。
大阪府警が公表した報告書の骨子
<検証結果>
・福島署は容疑者の私物保管庫を1カ月以上点検せず、自殺6日前の点検簿は偽造
・署は夜間巡回の強化を決めたにもかかわらず、自殺直前の回数を大幅に間引いて一部は虚偽報告
・署は自殺示唆の便箋発見後は警戒度を引き上げる検討をすべきで、府警本部の指導・助言も不十分
<再発防止策>
・本部と署で情報共有を徹底し、自殺などの言動を厳格に評価する
・私物保管庫の点検や巡回を巡る内規の順守徹底