多くの選手が使用する厚底シューズ=前橋市で2023年1月1日、長谷川直亮撮影
2023年1月1日午前9時15分にスタートした第67回全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)。選手たちが米ナイキ社製の厚底シューズを使用する近年おなじみの光景は前回、国内メーカーの盛り返しで変化の兆候を見せ始めた。今回は、短距離で名をはせるブランドも本格参戦した。
シューズ名は「EKIDEN」
スタート地点の群馬県庁前。1区の選手36人のうち、20人強がナイキの厚底シューズを履いていた。それ以外の選手は、アシックスやアディダスなどを使用していた。
2、3日の箱根駅伝を含め、新春の駅伝は依然として「ナイキ強し」の印象だが、寡占状態は変わってきている。21年はニューイヤー駅伝で9割近く、箱根駅伝で約95%の選手がナイキの厚底シューズを使用していたが、22年はニューイヤー駅伝で77・6%、箱根駅伝は73・3%と減少した。
風穴を開けたのが、国内大手のアシックスだ。関係者の調査では、17年の箱根駅伝では選手が履くシューズ1位だったが、21年のニューイヤー駅伝は1・6%で、箱根駅伝はゼロ。アシックスは社長直轄のプロジェクトを設け、トップ選手への聞き取り調査を実施。選手の走り方に合わせた厚底シューズ「メタスピード」シリーズを完成させた。
反発力を高めるカーボンファイバー(炭素繊維)のプレートを採用する点ではナイキの厚底シューズと同じだが、アシックスは歩数を多くするピッチ走法用と歩幅を大きくするストライド走法用の2種類をラインアップ。オーダーメード感覚の製品が受け、有力選手が使い始めた。ある実業団選手は「多くの選手が使っている状況に耐えきれなくてアシックスからナイキに変えたが、対抗できるシューズができたと聞いてアシックスに戻した」と語る。
「ゼロの屈辱」から1年。22年のニューイヤー駅伝では、エース区間の最長4区(22・4キロ)で区間新記録を樹立した細谷恭平選手(黒崎播磨)をはじめ、全体の15・1%の選手がメタスピードを履いた。箱根駅伝でも11・4%まで回復。開発プロジェクトリーダーの竹村周平さんは「選手は『誰が何を履いているか』をチェックしている。有力ランナーの活躍は一定の評価につながる」と話す。
そして今回、虎視眈々(たんたん)と存在感アップを狙うのが、ドイツのプーマである。
プーマが開発した厚底シューズ。「EKIDEN」の名を冠し、芦ノ湖の青をイメージするなど「箱根」を意識した造りになっている=同社提供
100、200メートルでオリンピック3大会連続2冠のウサイン・ボルトさん(ジャマイカ)や、22年7月の世界選手権100メートルで日本選手初の入賞(7位)を果たしたサニブラウン・ハキーム選手(タンブルウィードTC)の契約メーカーだ。短距離の印象は強いが、担当者は「日本独自の駅伝用のシューズ開発がいかに重要かを(本国の)開発部隊に伝えた」と明かす。短距離で使う高反発特殊素材を配合しつつ、軽量性も重視した厚底シューズを21年から本格展開している。
関係者によると、22年のニューイヤー、箱根両駅伝でそれぞれ1人だったが、23年はニューイヤーで5人、箱根で10人前後が使用予定という。シューズ名はずばり「EKIDEN」。箱根駅伝の往路フィニッシュ地点である芦ノ湖の青をモチーフにするなど、購買者の琴線に触れる商品になっている。厚底シューズを巡るメーカーの争いは、群雄割拠の様相を呈している。【岩壁峻、丹下友紀子】