東京都立高校の男性教員が、育児の日々を描いた漫画の書籍化を認められなかったと...
都立高の男性教員が「パパ頭」のペンネームで描いた育児漫画の一コマ
東京都立高校の男性教員が、育児の日々を描いた漫画の書籍化を認められなかったとして昨年、都教育委員会を提訴した問題。都教委は公務員の兼業を規制するルールを理由に不許可としていたが、訴訟中に一転して許可した。漫画は出版される見通しとなったものの、一連の経緯からは兼業基準の曖昧さも浮かぶ。教員の兼業を巡る線引きについて考えた。(特別報道部・中山岳)
◆不許可理由の詳しい説明なかったのに…
「兼業を認められて出版にめどが立ったのは、ありがたい」。都立高の30代の男性教員はそう話す。
学校では、現代社会などの公民科目を担当。帰宅後の夜などに趣味で漫画を執筆している。5歳と2歳の子ども2人を育てて感じた思い、家事で壁にぶつかった経験をユーモアも交えて描く。「パパ頭」というペンネームでツイッターやブログで定期的に公開すると、人気に。フォロワー数は9万5000人を超える。
2020年3月、出版社から書籍化の誘いを受けた。地方公務員である教員が本業以外に報酬を得る場合、教委に兼業の許可を取る必要がある。男性は校長に、執筆は週4〜8時間ほどで仕事に影響はないことなどを説明。漫画も読んでもらった。校長の理解を得られ、同年8月に兼業申請を出した。だが1カ月後、都教委から校長を通じて「不許可」を伝えられた。
不許可理由の詳しい説明はなく、男性は「兼業の詳しい基準を知りたい」と昨年5月、不許可処分の取り消しや精神的苦痛の慰謝料などを都教委に求める訴訟を東京地裁に起こした。
都教委は訴訟で「兼業申請書に許可できるかどうか判断するのに必要な記載がなかった。そのため許可しなかった」などと主張し、訴えの却下を求めた。男性は「不許可とされた当時は、都教委から申請書が不十分だったとは言われず、出し直しも求められなかった」と首をかしげる。
男性は今年3月、改めて漫画出版で見込まれる報酬や執筆時間などを記した書類とともに兼業申請した。すると、都教委は許可。漫画は来年3月末までに出版できる見通しとなった。男性は「都教委の対応には疑問もあるが、対立を続けるのは本意でない」と、訴訟を6月に取り下げた。
「こちら特報部」が都教委に一連の対応について尋ねると、担当者は「最初に申請された書類に不備があり、十分に判断できなかったので差し戻した」と説明。訴訟の準備書面によると、出版の企画意図や報酬額などが不明確だったため、不許可にしたとみられる。
◆「自分の経験、教え子に還元できた」
男性は今年、ほかにも漫画や記事の執筆の依頼を受け、複数の兼業申請をした。自動車事故防止を目的とした保険サービスのPR漫画、育児の男女共同参画を促すウェブメディアの記事は執筆が認められた一方、家事の負担軽減をアピールする住宅用洗剤、家族写真の撮影サービスのPR漫画は許可されなかった。
「特定の企業や商品のPRにつながる業務は認められないようだが、線引きには曖昧さも感じる」。訴訟の経緯や兼業申請の結果をネットで発信すると、複数の教員から「自分も兼業申請を認められなかった」との相談が寄せられた。
男性は漫画の出版準備で編集者の助言を受け、作画やストーリー展開を学べたとし、こう語る。「勤務先でマンガ部の顧問だったこともあり、自分の経験を教え子に還元できた。兼業は教員としての厚みも生まれる。もう少し柔軟に認められるようになってほしい」