東京電力福島第一原発事故に伴う除染土を福島県外で再利用する環境省の実証実験が...
所沢市環境対策課に緊急要望書を手渡す前田俊宣さん(手前右)ら=所沢市役所で
東京電力福島第一原発事故に伴う除染土を福島県外で再利用する環境省の実証実験が埼玉県所沢市で予定されていることについて十四日、市民団体「埼玉西部・土と水と空気を守る会」など市内五団体と市外六団体が連名で、同省関東地方環境事務所(さいたま市)と所沢市へ緊急要望書を提出した。「五百メートル以内に小中学校や病院があり、市民が利用する公園などがある」と実験への懸念を示し、広く市民が参加できる公開説明会の実施や市民からの意見聴取を求めている。要望書は西村明宏環境相と藤本正人市長宛てで、年内の回答を求めた。(中里宏)
環境省は、同市内の環境調査研修所敷地内で年度内にも実験を開始する予定で、十六日夜に近隣住民への説明会を開く。しかし、出席できる対象を隣接の二地区の住民に限った上、先着五十人としている。市民からは「三十万人以上の市民がいるのに、先着五十人への説明で『市民が理解した』という踏み石にしようとしている」と批判の声が上がっている。
要望書は「汚染土壌の再利用実施について国民的合意がなされているといえる段階にはない」として、対象を五十人に限定した説明会のみで実施の可否を決定しないよう求めている。
土と水と空気を守る会の前田俊宣・事務局代表(77)は「どの程度の濃度の除染土を何トン入れるのか、まるで情報がない。市民としてはまず情報が先。それをみて受け入れるかどうかを判断したい」と話した。その上で「誰もが納得できる手続きなくして、強制的に実証実験が行われるようなことがあれば、この国は終わりではないか。周到に計画された陰謀のような印象をぬぐい切れない」と、十二月に入ってから実験の計画が明らかにされたことに不信感を示した。
これに先立ち十三日夜には、複数の市民団体メンバーらが市内で集会を開いた。参加者からは「まだほとんどの市民が実験を知らないのが実情」との声が相次いだ。
参加した男性は「『人間が造った放射性物質は徹底的に管理しなければならない』と専門家は言うが、原発事故以降、管理が場当たり的になっているのではないか」と指摘。別の男性は「福島だけに除染土を押しつけてはいけないから受け入れる、という美談の元に、人為的な拡散が行われようとしている。国民的議論と合意が先ではないか」と話した。
◆「議員さんも知らないの?」 「情報ない」市議会も困惑
実証実験の情報がないことに関しては、所沢市民を代表する市議会(定数三三、三十一人)も市民と同じ立場だ。各会派の市議は「今月になって新聞やテレビニュースで知った」と異口同音に話す。
自民系会派の青木利幸議員は「支持者は農家が多く、過去にダイオキシン問題の風評被害もあり、この問題にナーバスになっている」と話す。一九九五年、「所沢市の農産物から高濃度のダイオキシンが検出された」とテレビで報道され、同市産野菜価格が暴落する騒動があった。結局、害はない数値だったが、農家にはトラウマ(心的外傷)がいまだに残っている。
青木議員は「まったく情報がなく、市民から『議員さんも知らないの?』と言われてしまう。市議会への説明会も環境省に提案していく」と困惑顔だ。
立憲系会派の石本亮三議員は「個人的意見」と前置きした上で「藤本正人市長は東日本大震災をきっかけに市長選に出た経緯があり、福島県だけに除染土を押し付けられないという思いがあるのかもしれない」と言う。一方で「一般人には放射能の安全レベルは分からない。放射能が見えないことへの不安もあり、事前に広く説明したら(反対が広まり)実験が成立しないと考えたのではないか」と推測する。
共産党の城下師子(のりこ)議員は「環境省に説明会への市議の参加を求めたが断られた」と憤る。「除染土は原因者の東京電力が責任を持って処分するべきだ」とし、十六日の市議会一般質問でこの問題の経緯を議会では初めて質問する。(中里宏)