群馬県の歴史や文化、産業など多様な題材が札となっている「上毛かるた」。県内の子どもは...
群馬県の歴史や文化、産業など多様な題材が札となっている「上毛かるた」。県内の子どもは学校などで学んだり、競技会に参加したりするため、県出身者で知らぬ者はいないとされる。1947年に発行されてから75年。民間企業が11月、同県東吾妻町で運営する土産物店に「上毛かるた館」をオープンしたのを機会に、世代を超えて愛されるかるたの魅力を探った。(羽物一隆)
◆「子、親、祖父母で共通の話題」
上毛かるた館は東吾妻町岩下の国道145号沿いにある。約200平方メートルの土産物店の約半分が充てられ、「上毛かるた」の絵札を読み札とともに縦100センチ、横80センチのパネルで紹介し、来場者は無料で見られる。トウガラシなどの食品加工品を製造販売するアジル(東京都)が、6年前に建てた工場の敷地内にあった元ドライブインを整備した。
施設を訪れた東吾妻町の日野梢子さん(82)は「子どもが見学して面白かったと話していたので見にきた。長く触れておらず、かるたの細かい内容は覚えていなかったけれど、展示を見ていると思い出して楽しい」と笑顔を見せた。
アジル代表の渡辺邦明さん(51)は山梨県出身。妻の出身地の縁で群馬県に進出した後に上毛かるたを知った。「子、親、祖父母の3世代で共通の話題がある。これだけ郷土に定着した文化をすごいと感じた」という。
◆県内各地の特徴を網羅
一方、かるた単体の展示施設が県内にないことも不思議に感じた。公立でないことに驚く来場者も多いという。かるたを題材にした土産物の販売で施設の運営費をまかなう方針で、渡辺さんは「上毛かるたを題材とした商品に大きなビジネスチャンスがあると判断したが、『郷土文化を発信したい』との思いも大きい」と話す。
情報発信のアイデアを考える中で、かるたの札が県内各地の話題をバランス良く網羅していることが利点と感じている。かるた館のウェブサイトを充実させるつもりで、「かるた札を切り口に、題材となった市町村の観光や食の情報を盛り込めば、群馬の魅力を幅広く紹介できる」と構想を練っている。
上毛かるたは「郷土かるた」の一つ。NPO法人日本郷土かるた協会(群馬県吉岡町、山口幸男理事長)によると、郷土かるたは全国に2000以上ある。ただ、今も30回を超える大会が開かれるなど継承されている例は30ほどしかなく、上毛かるたのほかには、彩の国21世紀郷土かるた(埼玉県)や房総子どもかるた(千葉県)などがある。
地理学などを研究する大島登志彦・高崎経済大名誉教授(68)は「郷土かるたは全国的に一時ブームだったが、多くは時代とともに衰退した。上毛かるたが定着したのは、各地の特徴がよく出ていて、地域学習の教材として優れていたことが大きい」としている。
上毛かるた 1947年12月に初版発行。戦後間もない時期に「子どもたちに明るく楽しく希望の持てるものを」と群馬文化協会が製作した。翌48年に第1回県競技大会が開かれ、これまでに開催数は73回を数える。「い・伊香保温泉日本の名湯」「つ・つる舞う形の群馬県」などの全44札があり「ち・力あわせる二百万」は、初版時の「百六十万」から、県の人口増加に合わせて4回上方修正され、1993年に「二百万」となった。人口は今年10月現在で191万人まで減少しており、初の下方修正が懸念されている。現在は県が著作権と商標権を保有する。